千葉市でおすすめ評判の歯医者・ブライト歯科・矯正歯科クリニックの口コミ・評判

星陵日記

源頼朝の死因は歯周病??

寒気が身にしみる季節となりましたが、皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。

最近では、テレビの影響もあり歯周病が全身に影響を及ぼす怖い病気と認知されつつあるように感じます。
そんな歯周病に歴史上の人物も苦しめられていたかもしれません。
それは源頼朝です。

1185年、壇ノ浦の戦いで平家が滅亡し、頼朝は征夷大将軍に任ぜられ、独裁権力を握ります。
その後、大江広元ら有能な官僚による統治システムを進めますが、1198年12月27日、相模川で催された橋供養からの帰路、落馬して体調を崩し、翌年1月13日に死去しました。
死因に関しては諸説ありますが、落馬の際は一過性の脳虚血発作であり、一旦は回復したものの、その後も致死的でない発作を繰り返し、水を飲んで誤嚥し、肺炎から敗血症をきたして死亡したのではないかと考えられている説があります。
いずれにせよ、それまでの『吾妻鏡』には頼朝の健康に関する記載がほとんどありませんが、死去約4年前に歯の病に苦しんだという記載があるようです。

もし歯周病であったとすると、単に口腔内の炎症であるのみならず、心内膜炎、アテローム硬化、脳梗塞、虚血性心疾患、糖尿病などのリスク因子となります。
さらに歯周病患者では、口腔内の嫌気性菌自体が誤嚥性肺炎のリスクとなります。

度重なる暗殺未遂、そして幕府設立に至る権力闘争で多くの一族や部下を粛清してきた頼朝の絶え間ないストレスは、歯周病を悪化させ、歯周病が孤独な権力者の全身を蝕んでいったのかもしれません。
もしこの時代に頼朝が適切な歯科治療や口腔ケアを受けることができていれば、倒れて寝たきりになっても誤嚥性肺炎で死んでしまうことはなかったかもしれません。

歯周病は、虫歯と並ぶ歯科の2大疾患のひとつです。
厚生労働省が3年ごとに実施している「患者調査」の平成29年(2017)調査によると、「歯肉炎及び歯周疾患」の総患者数(継続的な治療を受けていると推測される患者数)は、398万3,000人で、前回の調査よりも66万人以上増加しました。

軽度のものも含めると、成人の約70~80%の人が歯周病に罹患していると言われています。
口腔内だけでなく全身疾患の予防のためにも、歯科治療と口腔ケアを徹底していきたいですね。

(参考文献:早川智『戦国武将を診る』朝日新聞出版)

歯科医師
末次里沙

 カテゴリ:未分類

歯磨きの起源と歴史

皆さまこんにちは。歯科医師の小松です。
11月に突入し徐々に冷え込む季節となりましたが、ご体調を崩されてはいませんか。

今回は口腔清掃の起源についてお話ししたいと思います。
皆さまは、いつから口の中を清潔に保つ習慣が始まったのかご存知ですか?
口腔清掃の起源には世界共通のものがあります。
それは医学的見地からではなく、信仰とともに起こったと言われています。
人々は神に祈る前の身を清める作法の一つとして口を漱ぐことにはじまりました。
ギリシャの哲学者アリストテレスがアレキサンダー大王のために書いた『健康の書』にも記載がある通り、紀元前から口腔清掃の習慣があったことがわかります。
そして歯磨きの歴史について実証されている世界の最も古い記録は紀元前1500年頃のエジプトのパピルスにあるものと言われています。
また、日本における歯磨きの起源は6世紀ごろの仏教伝来とともにあります。
B.C.5〜6世紀にインドで起こった歯木(しぼく)と呼ばれる木片を咬砕したもので歯面を擦り始めたのが始まりとされています。
仏教が日本に導入された頃には、僧侶、公家などの上流階級が身を清める儀式として歯磨きを行なっていました。
そして江戸時代になると、歯木は房楊枝へと形を変えて商品化されました。
また、この房楊枝には3つの働きがありました。まずブラシ状になっている部分で歯を磨き、反対側の尖っている部分で歯と歯の間の汚れを取り除きます。
さらに柄のカーブした部分で舌をこすり、舌の掃除もしていたそうです。

また以前では塩を用いて歯磨きをしていましたが、歯磨き粉(砂の歯磨剤)も普及し庶民にも歯磨きの習慣が浸透していきました。
しかし当時の人々の口腔衛生管理の意識は現在に比べて低く、知識も少なかったため虫歯や、歯周病になって歯を失う人が多かったそうです。
江戸時代の俳諧師 松尾芭蕉もその一人です。自身の歯についての句を次のように詠んでいます。
「むすびより はや歯にひびく 清水かな」
これは、手で清水をすくい、口にいれようとするとその冷たさが歯にしみる気がするといった意味です。虫歯や歯周病により冷水のおいしさも十分に味わえなかったことを嘆いているように思われます。
一方で、次のようなお話もあります。
養生訓など健康に関する本を著した江戸時代の儒学者 貝原益軒は、83歳にして歯を一本も失っていなかったそうです。
養生訓にて「毎日、時々、歯を叩くこと36度すべし、歯かたくなり、虫くはず、歯の病なしと」と述べています。
これは12世紀に中国で記された「養生方」に出てくる「叩歯(こうし)」の歯のケア方法に由来します。叩歯とは、歯をカチカチ鳴らすことで歯の骨を丈夫にする噛む健康法で、虫歯にもならないと言われていました。
このように、現在のような歯ブラシや口腔清掃方法が確立されるまでは多くの人が虫歯や歯周病で苦しみ、独自の健康法が編み出されていたのだと想像できます。

歯ブラシの登場

江戸時代末期の開国により明治時代初期には現在の形のような歯ブラシが西洋文化とともに流入してきました。
日本で初めて発売された歯ブラシが、この西洋歯ブラシを真似て作られた鯨楊枝とよばれるもので、鯨の髯を柄にして馬毛が植えられていました。
そしてこの歯ブラシという言葉が最初に使われたのは大阪盛業会社が明治23年頃『歯刷子(はぶらし)』という名称で出品してからの事で、さらに商品名として歯ブラシという言葉が使われるようになるのは大正3年、『万歳歯刷子』が登場した後からでした。
さて、この歯ブラシの登場はとても画期的な出来事であったと思われますが、当時は人々の関心が低くすぐには浸透しませんでした。
その理由としてあげられるのが、動物の骨と毛という素材で作られた馴染みのないものであった点でした。
また歯ブラシは高価なものであり、文明開化後にもお歯黒の風習を続けている女性には房楊枝は歯の手入れに欠かせない必需品とされていた為、なかなか浸透せず、一般に普及したのは日常生活の洋式化が進んだ明治時代の後半から大正にかけてのことでした。
余談ですが、このお歯黒をつけるという習慣は既婚婦人の証明であったことはよく知られていますが、その他にも虫歯予防の見地からも有効であったとされています。
このことをヒントに、お歯黒に使われていた成分で子供の虫歯予防・進行防止を目的とする歯科用薬剤が作られました。
しかし最近の日本では審美性の観点からあまり使われなくなりました。

お話を戻します。
明治時代に歯ブラシが西洋文化とともに流入し、日本でも歯ブラシの生産が始まりました。
歯ブラシが脚光をあびるようになるにつれてブラシ製造を専業とする業者も徐々に増えブラシ製造技術を発展させてきました。
しかし発売当時は全て手作業で行われていたため作業効率が悪く、また歯ブラシも現在のような形や素材よりも劣るものでした。
そこで歯ブラシの企業は、より清掃性の高い歯ブラシの開発を求め大学病院などと共に研究を積み重ね、昭和26年頃になると現在のようなナイロンと樹脂からなる歯ブラシが登場しました。
ナイロンと樹脂は大量生産が可能であるため画期的な発見であったと言えます。
さらに現在では年齢や用途によって歯ブラシの形や硬さなどが異なる多くの種類の歯ブラシが誕生しました。

また清掃補助具として以下のものも誕生しました。

・舌ブラシ 舌の上の口臭の原因になる舌苔を取り除く
・タフトブラシ 重なった歯の隙間や1番後ろの歯の奥など磨きにくい箇所を磨く
・歯間ブラシ 歯と歯の間の清掃や被せ物(ブリッジ)の下の部分を磨く
・デンタルフロス 歯と歯の隙間を磨く

さらに、歯磨剤も砂などが含まれた歯を磨くためだけの物理的歯磨剤から歯を強くするためにフッ素などが配合された化学的歯磨剤に進化していきました。
そしてこのような清掃器具の研究開発の要素にブラッシング方法が加入していき、近年では日本歯科医師会による口腔衛生の向上を普及、啓発する運動や厚生労働省による歯科疾患の実態に関する調査なども行われるようになりました。
詳しくはこちらをご覧ください。

日本歯科医師会 啓発運動一覧
https://www.jda.or.jp/enlightenment/
厚生労働省 歯科口腔保健関連情報
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/shikakoukuuhoken/index.html

まとめ

歯磨きの歴史はいかがでしたか?人類は紀元前から口腔清掃をはじめ、清掃器具に関しては、より適した形をもとめ技術を磨き改良を重ねることで現在の形が人々に定着しました。
歯磨剤や清掃補助具に関しても日々研究が進んでいます。
このように便利に健康が手に入れられる時代であるからこそシチュエーションに合った清掃器具を選択し、正しい使い方をマスターすることが大切です。
全身の健康と関係の深い歯を守るために、日々のオーラルケアを大切にしましょう。

(参考文献 改訂歯ブラシ事典・見て楽しい歯的博物館)

歯科医師 小松リナ

 カテゴリ:未分類

BiPSEE医療XR

 

空は高く澄み渡り、さわやかな季節となりましたが、皆様におかれましては健やかにお過ごしのことと存じます。

今回は、治療に不安があるお子さんや保護者の方々のために開発された「BiPSEE医療XR」についてご紹介します。
BiPSEE医療XRは、ゴーグルと特殊なスマートフォンを使用して、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を体験できる装置です。
歯科では、待合室からユニットへの移動や、待ち時間、治療中などお子さんが不安や緊張を感じる場面で有効に用いることができます。

 

画像コンテンツとして、画面のなかを魚やくらげが動き回る「海のいきものとあそぼう」、蝶やとんぼが飛び回る「きのこの森たんけん」、雪の結晶がひらひらと舞い落ちる「毎日がクリスマス」があります。当院の患者さんには、「海のいきものとあそぼう」が一番人気でした!今後も面白いコンテンツが増えることを期待します。

また、トムとジェリーのアニメーションも人気で、夢中になりすぎて治療が終わったのに気づかないお子さんもいました。

公式HPによると歯科VR体験後には保護者からも前向きな回答が得られたようです。


当院でも体験された患者さんの多くにご好評をいただきました。
興味がある方はぜひ下記URLをご参照ください。

https://www.bipsee.co.jp/

歯科医師
松崎麻実

 カテゴリ:未分類

WDAI

先日ストローマン主催のインプラントのセミナーWDAIベージックコースに参加してきました。
WDAIは“Woman Dental Academy for Implantology”女性歯科医師が学びやすい環境を目指したもので、講師の先生は田中道子先生を始め、柳井知恵先生、立川敬子先生、渥美美穂子先生の他、臨床経験豊富な女性歯科医師の講師の先生方か多くいらっしゃいました。
そこで学んだことや感じた事など交えながら以下でご紹介していきたいと思います。

セミナーは合計2日間行われました。
1日目はインプラント学概論、インプラントに必要な局所解剖、インプラント診査診断、治療計画、外科の基本などの講義がありました。インプラントを行う上で重要な動脈や神経、起こりうる合併症、偶発症など改めて学ぶことができました。
患者さんによって残っている歯の数や骨の状態は様々であるため、それを調べるための診査、診断、患者さんへの説明と同意がいかに重要であるかも学ぶことができました。
また、小林先生によるインプラント器具の特徴の基本や今回はストローマン会社でのセミナーであったため、ストローマン会社のインプラントの特徴をマニュアル本を参照しながら学びました。
メーカーによる違いなどが詳しく聴けるのはセミナーならではと感じました。初心者でもとても分かりやすく面白く教えて頂きました。

午後はストローマン社製、BLT、TL埋入のインプラント外科実習を行いました。
外科実習では柳井先生によるデモンストレーションのもと、顎模型を用いてインプラント体埋入実習を行いました。
BLTとはボーンレベルインプラントのことで、アバットメント(被せもの、歯として見える部分とインプラントを接続させるもの)が骨の中のレベルにあるもの、TLとはティッシュレベルのことでアバットメントの接続が骨の上、歯肉のレベルにあるものを言います。今回はこの二種類のインプラント体の埋入実習をしました。
また歯肉付きの模型であったため切開の入れ方から縫合の仕方まで、臨床経験の話を交えて頂きながら行うことができました。

2日目はインプラントの補綴の基本、デジタルデンティストリー、ガイデットサージリー(インプラントを埋入する際の指標となるもの)、 光学印象のデモンストレーション、CAD/CAM(コンピューターで設計、作製するもの)についての講義がありました。
デジタル化の普及により印象材(型取りの材料)が不要となり不快感の軽減や嘔吐反射の方にも使用でき、印象を画面上で即時に観察することやデータを送信、共有できることが可能になった事でIOSの優位性を学ぶことができました。

午後は補綴実習、オープントレー法による印象採得がありました。
インプラントの型取りには用いるコーピング(型取りに使用する部品)によってオープントレー法とクローズドトレー法の2種類があります。

印象からコーピングの着脱をしないため一般的に印象精度が良好とされているオープントレー法を用いることが多いですが、コーピングの長径が長いため、口を大きく開ける事に制限のある方にはクローズドトレー法を用います。
今回は印象精度をあげるためのコツや注意点をご指導頂きながらオープントレー法を行いました。

インプラントの歴史は50年になりますが、講義や実習が大学取り入れられたのは最近であり、大学時代にインプラントを学んだ事のなかった先生方やこれからインプラントを臨床に取り入れていきたい先生方など様々な理由で参加していました。
私は現在研修医なので大学での座学メインのインプラント治療についてしかわかりませんでしたが今回のセミナーで基礎的な知識と共に具体的な症例を見ながらの講義や実習があったため臨床的な知識を身につけることが出来たと思います。


また講師の先生は皆女性という事もあり、女性歯科医師ならではの考え方などを聴くことができました。

これまで、歯がなくなってしまったら入れ歯かブリッジの二択になってしまっていたところにインプラントが加わることで、治療の選択肢の幅が広がるのだと感じたのと同時に今後習得すべき技術だと思いました。

教科書で学んできた事が基本なのはもちろんですが、それだけではなく臨床での実際や経験談を聴き、また臨床で活躍される先生方を目の当たりにし今後のモチベーションの向上になりました。今回のセミナーで学ばせて頂いた沢山のことを活かしていけるよう日々精進していきたいと思います。

歯科医師 沼口友美

 カテゴリ:未分類

口腔機能の衰え
《オーラルフレイルとは》

皆さまこんにちは。
厳しかった夏の日差しも少しずつ秋風とともに和らいでまいりました。
夏のお疲れで体調を崩されてはいませんか?

今回は「オーラルフレイル」についてご紹介したいと思います。
皆様は「フレイル」という言葉を耳にしたことはございますか?

※frailtyの概念の日本語訳はこれまで虚弱が使われてきましたが現在では概念との整合性をとるため日本老年医学会から提唱されたフレイルが日本語訳として用いられています。

フレイルとは心身機能が落ち、介助が必要になる一歩手前の状態をいいます。
この状態のままでいるとやがては寝たきりや介助が必要な状態になってしまいます。
しかし、早期に原因を把握し適切な介入をすることで再び健康を維持し、自立した状態へ戻すことができるというものがフレイルです。

またフレイルは身体的な衰えのほか、心理的や社会的な衰えなどの多面性をもちます。

※ロコモティブシンドローム…運動器の障害により歩行困難など要介護になるリスクが高まる状態
※サルコペニア…加齢や疾患による筋力が低下した状態

オーラルフレイルの説明と問題点

そして、口の衰えを特にオーラルフレイルといいます。
口は生活に欠かせない機能を多く有しています。
しかしオーラルフレイルによって様々な障害が出てきてしまいます。

たとえば、虫歯や歯周病による歯の喪失に対し適切な治療がされず放置された状態が続くことで口の機能である咀嚼機能(食べ物を噛む能力)が衰え始めます。
咀嚼機能が衰えると噛めない食品が増加し、適切な栄養素(タンパク質等)を摂ることができなくなり、身体に低栄養をもたらします。
低栄養状態になると筋肉量も低下しさらなるフレイルの悪化に繋がります。
また咀嚼しなくなることで、認知機能の低下にもつながると近年言われています。
さらに、オーラルフレイルでは、あえて噛みやすい食事を選択することで舌や口の周りの筋肉、食べ物を飲み込む為の筋肉が使われにくくなり、むせて咳き込むことが多くなります。
また会話の際にはうまく舌が回らなくなる等の症状が見られます。

このように口と心身の健康は互いに密に関連し、影響し合っていると言えます。
しかし、身体にトラブルが起こった場合、医科にはすぐに受診しても口のトラブルは所詮死ぬわけではない、と軽視される傾向があり、些細なトラブルではなかなか歯科を受診されない方も多いのではないでしょうか。
ではここで下にオーラルフレイルかどうかのチェックシートがあるので、1つチェックをしてみてください。

いかがでしょうか。オーラルフレイルの危険性はありましたか?

しかし、冒頭でもお話ししました通り、オーラルフレイルは元の健康な状態に戻ることができる「可逆性」の性質を持っています。
即ち、不可逆性である接触嚥下障害や咀嚼機能不全になる前に、早急にフレイルの段階で介入し改善することが重要になってきます。
ではどのような対策があるのでしょうか。

対策改善策

オーラルフレイルにならないための対策または、なってしまっている場合に出来る改善策、それは歯を残すことと口腔機能の向上です。
厚生労働省によるオーラルフレイルの提言をうけて平成元年に8020運動が生まれました。
8020運動は80歳で20本以上の歯を保ち、何でも噛んで食べられることを目指して展開されてきました。
歯を失う主な原因は歯周病と虫歯によるものであり、これには日々の適切なブラッシングとかかりつけ医による定期的なクリーニングと検診を受けることで予防が可能です。
また8020が達成できなくても、失った歯をブリッジや入れ歯で補綴し、口の中の状態を良好に保つことで食べられる口の維持につとめることが重要です。
また栄養を十分摂取するために、歯を残すことと同時に噛み砕き、飲み込むといった口の周りの筋肉の機能の向上にも目を向ける必要があります。
そのためには普段からの口周りの筋肉を鍛えたり、食べ物を口の奥へ運ぶ潤滑剤である唾液の分泌の促進が重要になってきます。
例えば前者には〈パタカラ体操〉というものがあります。
それぞれの発音でどこの筋肉を使っているか意識することで自分はどこの筋肉が落ちているのかを認識することができます。

また、唾液を分泌させ、円滑な食事をするために、〈唾液腺マッサージ〉があります。
唾液は唾液腺という分泌腺から分泌されますが、加齢や服用されている薬の副作用、ストレスがかかったり緊張などで出にくくなります。
唾液が出にくいと感じている方は下図のマッサージ方法をお食事の前にぜひ試してみてください。
しっかりと唾液が分泌されれば食べ物の味を感じ、美味しく食べることができます。
そしてこれらを継続することがオーラルフレイル改善の近道となります。

さらに、意識的に咀嚼や口唇、舌の運動を促す食事を選択することが大切です。
低下した咀嚼を中心とした摂食・嚥下機能に関わる筋肉を回復させることで摂食・嚥下機能だけではなく全身の筋力や身体機能も回復し、外出、食事、会話を楽しむことができ、社会参加への自信がつくことで精神心理的フレイル、社会的フレイルからも脱却できると考えます。

まとめ

現在我が国は世界で最も高い高齢化率を有しており、2025年には団塊の世代がすべて、75歳以上となり、2040年には高齢化のピークを迎えようとしています。
その為今後は平均寿命と健康寿命の差を減少させ、元気に長生きすることが大切です。
ご高齢になってからすでに衰えてしまった口の機能を回復するのは難しくなってきます。
そのため、口の中の些細な異変にご自身で早く気がつき、定期的な歯科でのオーラルフレイルのチェックをお勧め致します。
また、ご自身や歯科にて口腔機能訓練のみを行うよりも、日々の食事を通じて口腔機能を改善する方が栄養状態も改善することから効率的であると考えます。
生きることは食べること、しっかり噛んでしっかり食べることが大切です。
現在、飲み込みづらい、口が渇くといった症状でお困りの方、さらに口腔機能訓練をもっと知りたい等、少しでもオーラルフレイルについて気になってる患者様がいらっしゃれば、お気軽にご相談ください。

歯科医師小松リナ

〈参考文献〉
日本抗加齢医学会雑誌アンチエイジング医学2016
老年歯科医学用語辞典第2版
マンガでわかるオーラルフレイル

 カテゴリ:未分類

永久歯に生え変わる時期は?

長引く梅雨にさわやかな青空が待ち遠しい今日この頃ですがいかがお過ごしでしょうか。
最近当院では、学校歯科検診で紙をもらったお子さんが多く受診されています。

そこで親御さんから「お友達は乳歯が抜けているのにうちの子はまだ」、「乳歯が抜けてなかなか永久歯がはえてこない」など生え変わりに関する心配の声を多く耳にします。
そこで今回は子供の永久歯はいつ生えてくるのかをお話ししたいと思います。
一番前にある中切歯から順に1,2,3・・・と数えていくと

生えてくる順番は男女とも上顎が6≒1→2→4→3→5→7、下顎が1→6→2→3→4→5→7の順番になることが多いようです。
まず6歳前後になると最初の永久歯が生えてきます。
以前は、下の第2乳臼歯の後ろにある第1大臼歯が、最初に生える永久歯となるのが普通だったのですが、最近は下の乳中切歯が永久歯に生え変わるほうが早い場合が多いようです。
永久中切歯が生えて6か月から1年くらい過ぎるとその横の側切歯や上の中切歯が生え変わり、さらに数か月遅れて上の側切歯が生え変わります。
9歳から12歳くらいにかけては、側方歯群と呼ばれる乳犬歯、第1乳臼歯、第2乳臼歯が順次生え変わり、さらに、これらの歯の一番後ろに第2大臼歯が生えて、永久歯の歯並びが完成します。

人によっては20歳頃になると、さらに後ろに親知らず(第3大臼歯)が生える場合もあります。
すべての永久歯で女子の生えてくる時期が早い傾向にあります。また近年日本人の永久歯の生えてくる時期のばらつきが大きくなっている傾向があるようです。つまり永久歯の生え変わりは個人差が大きくなっていると言えます。

 

【生え変わりの際の注意点】

乳歯が抜けていないのに永久歯が生えてきてしまった時
 ・乳歯が揺れているが永久歯が下から出てきた
乳歯が揺れているのであればそのまま経過を見ます。だだし、かんだ時に強く痛みが出て食事もとれないようであれば抜歯をします。特に下の歯の前歯に起こりやすく、乳歯が抜ければ裏側から前に移動します。
 ・乳歯が揺れているがいつまでも抜けずに残っている
奥歯に起こりやすく、乳歯の根は2本あり、永久歯が斜めに生えてくると片方の根が溶けずに残ってしまい揺れはしても、なかなか抜けないことがあります。この場合は抜歯をする必要があります。乳歯が抜ければ永久歯は正しい位置に移動することが多いです。
 ・乳歯が全然揺れていない
乳歯が全然揺れていないのに永久歯が出てきてしまうことがあります。骨の中で永久歯の位置がずれて、乳歯の根を溶かさずに出てきてしまったためです。この場合も抜歯をする必要があります。乳歯を抜歯すれば永久歯は正しい位置に戻ります。

乳歯が抜けたのに永久歯が生えてこない時
 ・乳歯が抜けても3か月永久歯が生えてこない
そのまま経過を観察します。特に上の前歯は乳歯が抜けても永久歯がなかなか生えてこないことが多いです。
 ・乳歯が抜けても半年生えてこない
レントゲンを撮って歯茎の中に永久歯があるか、過剰歯などの異常がないか確認します。
 ・先に隣の永久歯が出てきた
永久歯には自然に生えてくる力はありません。矯正の力を使って引き上げる処置をします。

乳歯がいつまでも生え変わらない時
 ・成長がゆっくりな方
乳歯が交換の時期になってもかなり残っている場合があります。レントゲンを撮って永久歯の存在がわかれば交換まで待ちます。
 ・下に永久歯がない先天性欠如
乳歯の下に永久歯がない先天性欠如の方がいます。その場合は乳歯をそのまま使い続け店もらうことが多いです。
噛む力を維持するため、なるべく乳歯を長持ちさせることが第一目標になります。乳歯が抜けてしまった場合、歯列矯正もしくは入れ歯・ブリッジ・インプラントなどの補綴治療を行います。

生え変わりは個人差が大きく、心配しすぎる必要はありません。日頃からお子さんの口の中をよく観察して、心配なことがありましたら歯科医院に相談しましょう。

歯科医師
末次里沙

 カテゴリ:未分類

口臭白書 2019

 
西日本もようやく梅雨入りをし、関東も雨の日や曇りの日が続いています。
蒸し蒸し暑かったり、肌寒い日があったりと気温の変化がありますが、皆さまはお元気でお過ごしでしょうか?
梅雨空のどんよりとした天気の中でも、色とりどりの紫陽花が咲いているのを見ると心が癒されますね。

皆さまの口腔内のお悩みにはどんなものがあるでしょうか?
一人一人様々なお悩みを抱えていらっしゃるとは思いますが、口臭白書2019によると自分自身の口臭が気になった経験が「よくある」が17.9%、「時々ある」が56.7%にのぼっています。
「1度はある」(16.0%)を合わせると90.6%、口臭が気になった経験があるという結果でした。

口臭症の国際分類

口臭には食べ物によるものや舌苔、唾液の減少などの口腔内由来のものや、糖尿病や扁桃腺炎、蓄膿症などの口腔内以外の原因など様々なものがあります。

その中でも、口臭の原因の多くが舌苔(舌にたまった食べかすや粘膜)によるもので、舌苔以外にも虫歯、歯周病といった口の中に由来するものがほとんどです。
舌苔とは舌に付着した白っぽい汚れで、口臭を引き起こす細菌やタンパク質を多量に含んでいます。
多少の舌苔は健康な人にもありますが、口の中が乾いているとき、体調がよくないとき、胃腸の病気や脱水を伴う病気があるときなどに厚くなると口臭の原因となります。

口臭の原因を調べる検査の1つに、ガスクロマトグラフィーがあります。
これは、機械で口の中の臭い成分を数値化して調べる検査法で口の中の細菌が出す硫化水素や歯周病菌のメチルメルカプタン、内臓疾患などがあるときに出るジメチルスルフィドという、口臭の原因となる3つのガスを分析します。
3つの成分以外のガスが口臭の原因となるケースもあるため、その場合は、医師が直接臭いを嗅ぐ官能試験で確認します。

皆さまの中にもこのようなお悩みをお持ちの方はいらっしゃいませんか?
口臭対策としては、日頃の歯みがきで口腔内を清潔にすることや舌ブラシによるケア、唾液分泌促進のためよく噛んで食べる事などがポイントになります。
もし、強い口臭が気になるときは舌苔の異常や歯周病、虫歯など、口臭の原因となる病気がないか、歯科医院でチェックを受けることをお勧め致します。

歯科医師
沼口友美

 カテゴリ:未分類

歯磨きのコツ

10連休のゴールデンウィークが明け、また仕事や学校など日常生活が始まりましたね。
皆様、大型連休はいかがでしたか。
ご馳走を召し上がったり、お酒を飲まれる機会も多かったのではないでしょうか。
もしかすると、普段通りにお口のお手入れができなかった方もいらっしゃるかもしれませんね。

ご存知とは思いますが、日々の丁寧な歯磨きはとても大切で、虫歯・歯周病予防の第一歩です。
今回は歯周病にならないための歯磨きのちょっとしたコツについてお話していきたいと思います。

<デンタルフロスと歯間ブラシを使いこなす>

実は歯ブラシのみで歯を磨いても歯垢は61%しか除去ができないということをご存知でしょうか。
歯ブラシの当たりにくい場所として例えば、歯と歯の間の歯茎が三角形になったところがありますが、この場所は最も汚れやすく、多くの方が磨けていないポイントです。
歯と歯の隙間の汚れを落とすのに適した清掃用具には、歯間ブラシとデンタルフロスがあります。

歯の隙間の広さによって、適したアイテムは異なり、歯と歯の隙間が狭い箇所にはデンタルフロスが、隙間が少し広い場合には歯間ブラシが適しています。
これらのアイテムを歯ブラシと併用することで歯垢除去率は84%までアップすることができます。

1. デンタルフロス

デンタルフロスには、ワックス加工が施されているものと、そうでないものがあります。ワックス加工がされていることで滑りが良くなり、歯と歯の隙間に通しやすくなるというメリットがあります。
そのため、歯と歯の隙間が狭い人は、通しやすいワックスタイプがおすすめです。
また、ワックス加工がされていないノーワックスタイプは、比較的プラーク除去効果が 高いとされています。
フロッシングを習慣付けることも大切なので、デンタルフロス選びにおいて、使いやすさも重要なポイントです。

・正しい使い方
ⅰ)デンタルフロスを30~40cmでカットする
ⅱ)両端を両手の中指に巻きつけて中指と中指の間が15cmほどになるようにする
ⅲ)2cmほどの間隔を作るように両手の親指と人差し指でデンタルフロスを持つ
ⅳ)歯の側面に沿わせながら、ゆっくり歯の隙間に入れる
ⅴ)歯茎の中にデンタルフロスが少し隠れるくらいまで滑り込ませ、上下に動かして歯垢をこすり落とす

2. 歯間ブラシ

歯間ブラシにはストレートタイプとL字型タイプがあり、それぞれ前歯と奥歯に適しています。
また、ストレートタイプは曲げて使用することも可能です。
歯と歯の隙間は、個人差があります。また、歯周病が進行しているケースでは、歯と歯の隙間は大きくなります。歯間ブラシは5段階のサイズ(太さ)に分かれているので、自分に適したサイズのものを選ぶことが大切 です。
まずは1番小さいサイズから使用してみると良いかもしれません。

・正しい使い方

歯と歯の隙間にブラシを入れ、歯の側面に沿わせながら舌側とほっぺた側にやさしくに動かします(数回往復させます)。
上の歯に使用する場合は、歯肉を傷つけないように下向きに挿入し、下の歯に使用する場合は上向きに挿入すると良いでしょう。
歯間ブラシの持ち方は、鉛筆を持つときと同じようにして、力を入れすぎないようにすることも大切です。

もしも、歯垢を完全に除去する歯磨きがいつも行われていたら、歯周病にはなりません。
ところが、毎日磨いているのに歯周病になったという方は多くいらっしゃいます。
それは、きちんと磨いているつもりでも細かい部分に磨き残しがあるからです。
歯磨きにはひとりひとりの癖があって、それぞれ違った磨き残しのポイントがあります。
そのポイントは歯科医院で診てもらえばすぐにわかりますので、自分の歯磨きの癖を知り、歯ブラシ、デンタルフロス、歯間ブラシなどの補助器具を使い、磨き残していたところを意識して磨くことが大切です。
そして、しっかり磨けているか、指摘された自分の歯磨きの欠点は直っているかということを3~6ヶ月に1度のペースで歯科医にチェックをしてもらうことをおすすめします。
丁寧な日々の歯磨きと、定期的な歯科検診で歯周病を予防していきましょう。

歯科医師
廣田 小百合

 カテゴリ:未分類

顎関節症とTCH

皆様こんにちは。
朝晩はまだ冷え込みますが、日差しは春めいてきましたね。
季節の変わり目で体調を崩されるかたも多いようです。
暖かくなってきても、うがいや手洗いなどをしっかりして、どうぞ皆様ご自愛ください。

ところで、皆さんはTCHという言葉を聞いたことはありますか?
近年顎関節症の主要な原因として話題にもなったことがありますので、聞いたことがある方も多いかもしれません。
今回は、TCHと顎関節症についてお話しさせていただきます。

TCHとは?

まず、TCHとはTooth contacting habit(上下歯牙接触習癖)を略した言葉で、言葉通り、上の歯と下の歯を接触させる習癖のことを指します。
食事をしている時を除くと、本来は、上の歯と下の歯をくっつけてはいけません(歯と歯は離れてないといけません)。
くっついていると、顎関節に負担がかかって顎関節症になるリスクが生じるばかりでなく、歯周病の増悪因子や、歯根破折(歯が割れたりヒビが入ってしまう)の原因にもなる事が分かってきました。TCHがある人は、日常から歯と歯を合わせないようにすることが大切です。
TCHがあるか、調べる簡単な方法を紹介します。
まずは、唇を閉じて下さい。

このときに上の歯と下の歯がかみ合っていたら、TCHがある可能性が高いです。

このTCHは、仕事などで集中している時や睡眠中、運動時やストレスのかかっている時など、人により生じるタイミングは様々で、さらに無意識のものであるため、完璧に改善することが難しいところがあります。

ですが、まずはご自身でこの習癖を意識していただくだけでも、軽減することに繋がります。

では次に、TCHによって引き起こされることも多い顎関節症について詳しくお話しさせていただきます。

1.顎関節症とは?

口を開こうとすると顎関節(耳の穴の前にあります)や顎を動かす筋肉が痛む、あるいは十分には大きく口を開けられない。
または口の開け閉めで音がする。
という症状がでます。一生の間、二人に一人は経験すると言われているほど多くの方が経験します。
症状が音だけであった場合、これは首を回したり、肩を動かして音が出るという状況と同じです。
そのような音を気にして整形外科を受診する人はいないと思いますが、顎関節の場合、耳のすぐ隣にあるために「音が気になる」という人がいます。
しかしこの音を消すためには手術が必要になることから、世界的には「音だけであるなら手術すべきではなく、治療する必要はない」とされています。
ですから顎関節症の症状が始まったとしても、痛みや口の開けにくさが一時的だったとか、音だけで他の症状がなければ治療の必要はないかもしれません。
ちなみに、音だけであれば最低でも人口の20%近くの人は顎関節の音を持つとされています。
また顎関節や顎を動かす筋肉の痛み、あるいは顎関節症による口の開けにくさで、実際に治療が必要になる人は症状を自覚した人の中の5%程度と推定されています。

医療機関に来院される患者さんでは女性が多く、年齢は10歳代後半から増加しますが、20~30歳代で最大になり、その後は年齢が増えるとともに減少する傾向にあります。

2.顎関節症の診断方法は?

前に述べた顎関節や筋肉の痛みや口の開けにくさ、関節音のうちの一つがあり、他の病気を否定したときに顎関節症と診断します。
一般的には、症状がどのように始まり、どのように変化したかをお聞きし、顎関節や筋肉、口の中を診査し、必要に応じてエックス線撮影やCTによって骨の異常の有無を調べ、骨以外の関節構造や筋肉の問題についてはMRIによって調べる場合もあります。
顎関節症で出現する痛みや口の開けにくさは、親知らずの炎症や他の病気でも出ることがある症状なので、顎関節症であることを診断するためには、他の病気によって出てきている症状ではないことを確認する必要があるのです。

3.顎関節症はどのような状態なのか?

顎関節症の病気の状態(病態)は現在4つに分類されています。最も多いのは関節内にある関節円板(図1)というクッションが前方にずれることで起きる「カクンカクン」という音が出る状態(図2)、あるいはずれがもっと大きくなることで大きな口が開けられなくなる状態です(図3)。

特に口が大きく開かなくなると、口を開けたり食品をかもうとするときに痛みが出ます。
この2つの状態で来院される方が全体の60%ほどになります。
これ以外では顎関節そのものには痛みがないのですが、下顎を動かす筋肉がうまく働かなくなり、口を開けようとすると頬やこめかみの筋肉が痛むという状態(図4)、あるいは関節円板のずれはないのですが、口を開けようとすると顎関節が痛む捻挫に似た状態があります。
4番目はこれまでの3タイプほどは多くありませんが、関節を作っている骨が変形するタイプの顎関節症があります。
このタイプは長年顎関節症が続いていたり、年齢の高い方に多くみられます(図5)

4.原因は?

昔は「かみ合わせの悪さ」が原因と考えられていました。
今でも「かみ合わせが悪いと顎関節症を初めとして、全身にも色々な不都合が起こる」という意見もインターネットには沢山あります。
しかしもしそれが事実なら、歯科医療事情がまだ整っていない発展途上国には顎関節症患者があふれているはずですが、国際学会に出席してもそのような話しを聞くことはありません。
では何が原因なのでしょうか。実は原因を一つに絞ることができないというべきなのです。顎関節症の原因として現在世界的に認められている考え方は「多因子病因説」といいます。
関節や筋に負担のかかる要因は色々あります。
そのような要因がタイミングよくいくつも集まって負担が大きくなり、その人の持っている耐久力を超えると症状が出るという考え方です。
そのような要因には表1に示すように色々なものがあります(表1)。
このような要因の一つ一つは大きなリスクとは言えないので、それぞれを症状に対する「寄与因子」と言います。一つ一つは小さな要因ですが、このような寄与因子が多数集まることによって、症状を起こすほどの原因となるわけです。

まずはじめに、その人が持っている顎関節や顎を動かす筋肉の構造的弱さがあります。
この構造が頑丈であればいろいろな負担に耐えられるでしょうが、弱い場合には症状が出やすくなるでしょう。
「かみ合わせの悪さ」も寄与因子の一つではありますが、この寄与因子だけで症状を起こすケースはごくまれであると言えます。
さらに症状が起きるきっかけとなる外傷があります。
転倒して下顎をぶつけて顎関節を傷つけ、それがきっかけとなって顎関節症が始まることがあります。
それ以外にも精神的要因としては、例えば不安の持続による筋肉の緊張持続から痛みが生じたり、顎関節を傷つける場合もあります。
さらに、とりわけ多彩な要因として行動学的要因があります。
この要因は生活や仕事など、日常生活の様々な面で現れるもので、患者さんによって持っている因子がまちまちです。

治療しようとする時にその患者さんの全ての寄与因子を特定することができるなら、それらの寄与因子をできるだけ除いて行くことで、原因に対する治療を進めることができるのですが、全ての寄与因子を見つけるということは非常に困難です。
また見つけることができたとしても、除くことができない寄与因子もあります。
例えば顎関節の構造がいかにもひ弱だと思われても、それを大きく頑丈にすることはできません。
外傷についても、あらかじめ予測することは無理ですから、この寄与因子も除去することは困難です。
そういった寄与因子のうち、特に行動学的寄与因子の中で、最近見つかった重要な寄与因子があります。
それは必要がない時にも上下の歯を接触させている(かみ合わせている)歯列接触癖(Tooth Contacting Habit (TCH))と名付けた癖です。
普通、口を閉じていても上下の歯はかんでいないのですが、来院する顎関節症患者さんの8割近くの方たちが口を閉じているときに上下の歯もかんでいるという癖をお持ちでした。
この癖があると顎関節や筋肉に持続的な負担をかけることから、顎関節症を引き起こしやすくなることが分かってきました。
しかもこの癖を治すと、大部分の患者さんの症状が改善することも明らかになりました。
つまり、この癖が数ある寄与因子の中で最大の原因になっていることが分かったのです。このため、顎関節症の患者さんにこの癖をみつけた場合には、先ず一番にこの癖を治すべきということになったのです。

表1 原因となる寄与因子には色々あります。

1. 解剖要因: 顎関節や顎の筋肉の構造的弱さ
2. 咬合要因: 不良なかみ合わせ関係
3.精神的要因: 精神的緊張の持続、不安な気持ちの持続、気分の落ち込み感覚の持続
4. 外傷要因: かみちがい、打撲、転倒、交通外傷
5. 行動要因:
 1) 日常的な習癖 
  歯列接触癖(TCH)、頬杖、受話器の肩ばさみ、携帯電話やスマホの 長時間操作、下顎を前方に突き出す癖、爪かみ、筆記具かみ、うつぶせ読書
 2) 食事
   硬固物咀嚼、ガムかみ、片側でのかみ癖
 3) 睡眠  
  はぎしり、睡眠不足、高い枕や固い枕の使用、就寝時の姿勢(うつぶせ寝)、手 枕や腕枕
 4) スポーツ
  コンタクトスポーツ、球技スポーツ、ウインタースポーツ、スキューバダイビング
 5) 音楽
   楽器演奏(特に吹奏楽器)、歌唱(声楽、カラオケ)、発声練習(演劇等)
 6) 社会生活
  緊張が持続する仕事、コンピューター作業、精密作業、重量物運搬、人間関係での緊張、

5.顎関節症の治療とは?

①歯科医院での治療

まず、知っておいていただきたい世界的にも認められている治療方法の原則があります。
それは治療方法を選択する場合に、その治療による効果がなかったときに、患者さんにその治療による被害を残さない治療(可逆的な治療)を選択すべきであるという考え方です3)。
具体的には、かみ合わせを良くするためとして、歯を削る、被せ物をする、歯列矯正をするといった治療(不可逆的な治療)は避けるべきです。
このような治療を受けても症状の改善がなかった場合、元の状態に戻すことができません。
このような治療を行わなくとも症状を改善させることができます。
それはスプリント(マウスピース)、開口訓練、マッサージや湿布、習慣や癖を修正する行動療法などです。

一般的にはスプリント(マウスピース)による治療を行います。
これは上顎あるいは下顎の歯列に被せるプラスチックの装置です(図7)。

これを夜間睡眠中に使用することで、夜間の無意識かみこみで生じる顎関節や筋肉への負担を軽減させます。
痛みが強い時期には鎮痛薬も投与されるでしょう。
また、痛む部位にして近赤外線レーザーを照射する、あるいは電気刺激をすることで筋肉を自動的に収縮させて血液の流れを改善する場合もあります。
多くの場合はこれらの治療によって、症状が消失します。

②ご自宅で行える方法

顎関節症の痛みや開口しにくさといった症状の改善には、患者さん自身による家庭でのセルフケアが重要であり、そういったセルフケアを積極的に行うことが世界的にも提唱されています。
セルフケアなしで症状の完全消失はあり得ないといっても過言ではありません。

1) 症状が強い急性期(口を動かさなくとも顎関節や筋肉が痛むとき)の生活上の注意  顎関節症が急に起こったときは痛みが強く、口も手の指1本の幅くらいまでしか開かなくなる場合もあります。
そのような時は以下に記載したような生活上の注意を心がけてください。
そのようにしているうちに、多くのケースでは数日で痛みがやわらいできて、口の開き方も多少なりとも改善するはずです。
そうなったならもう少し積極的な方法を取り入れるようにしてください。

[具体的方法]

・ 10分間を限度として氷水を入れたビニール袋を痛む顎関節の外側、あるいは筋肉の上に当てて冷やしてください。10分冷やしたらゆっくりと開閉口して顎関節を動かすとともに筋肉を引き延ばす動作を繰り返してください。これを1日何回か行ってください。
・ 食品は小さく切り分け大きく開口することを避けるとともに、かみしめが必要な固い食品(特にビーフジャーキー、するめ、フランスパンといった食品のように、かみ切るのにしっかりかみしめる必要があるもの)は避けるようにしましょう。
・ 急に開閉口する動作は、関節をさらに傷つける可能性があるので避けましょう。
・ あくびをするときはすでに疲れている顎の筋肉で開口を抑えるのではなく、下あごの下に拳骨を置いて開口を抑えるようにしましょう。この方が顎の筋肉への負担を減らせます。
2) 症状が少し落ち着いてから(口を開けたり、物をかまなければ痛みが出なくなったら)行うべきセルフケア

[湿布]

・ 蒸しタオルを5分ほど当てて温めるといいでしょう。

[マッサージ]

・ 親指の付け根(母指球)や2~3本そろえた指先でゆっくり押し回すようにマッサージするといいでしょう。強くつまんだり、痛みが強まるほど激しくもむのは逆効果です。

[訓練療法]

・ 急性期の痛みが和らいできたら、少し痛みを感じる程度に関節を動かし、筋肉を引き延ばす訓練療法を行うと痛みの改善が早まります。ただ、これはいわゆるリハビリトレーニングですので、自己判断で行うのではなく、歯科医あるいは日本顎関節学会ホームページに公表されている「顎関節症の初期治療のための診療ガイドライン」にある指示に従ってください。

[行動療法]

・ ご自分が無意識に行っている行動や、姿勢、習慣等が症状を起こしやすくしたり、一旦始まった症状を長引かせているケースがしばしば見られます。そのような問題行動を自分で見つけることは簡単ではありませんが、もし見出すことができたり、あるいは歯科医からの指摘等が得られたなら、その行動を是正することが症状改善に大きく影響するでしょう。

時折、顎関節症の症状が消えていないのに、むし歯治療や入れ歯治療を受けてしまう患者さんがおいでです。
症状が消えていないというのはどのような状態かというと、通常の生活をしている中ではあまり不自由を感じてはいないのですが、体調が悪化したり、疲労が溜まってくると口が開きにくくなり、大きく開口しようとすると顎関節や筋肉が痛むという状態です。
これは言うなら「隠れ顎関節症」の状態であり、以前の顎関節症から完全には回復していないのです。
このような状態にある時は左右にある顎を動かす筋肉のバランスが取れていないために、元々のかみ合わせからずれてかんでいるのです。
このようにかむ位置が不安定な状態のままでかみ合わせを作る治療を行ってしまうと、不安定な位置ですから当然ですが、その位置でかみ続けることが苦痛になります。
結局はまた治療をやり直すことになるのです。
歯科医の中にはそのような状況を判断できない場合もあるため、このような無駄な治療を受けないためには、患者さん自身が顎関節症の症状の消失を確認できる事が必要です。

完全に機能が回復した場合は、最大まで口を開いても痛みはないはずです。
両手を使って無理矢理口をこじ開けても痛みが出ません。
こうなっているなら回復は完全と言えます。
音に関しては残るかもしれませんが、痛みがなく音だけであれば心配はいりません。
問題は痛みです。痛みが完全に消えているなら、歯科治療を受けても大丈夫です。
顎の開閉運動、そしゃく運動も安定しているはずですので、歯科治療によってもっとかみやすくなるでしょう。
また歯列矯正治療を受けて美しい歯並びにすることも可能です。
こうしてかみ合わせを良くすることは,原因のところで説明した寄与因子を減らすことにもなりますので、再発のリスクを小さくすることにもなります。

歯科医師 福島歩

 カテゴリ:未分類

はみがき勇者

早咲きの桜が春の訪れを知らせる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。

さて、当院にも小さなお子さんが患者さんとしてよくいらっしゃいますが、保護者の方から伺うお悩みとして挙げられるのが、「子供が嫌がって歯磨きのとき口を開けない。」「歯磨きしようとすると暴れて逃げてしまう。」というものです。
そんな悩みを解決するために、去年あるアプリが開発されました。

みなさん、「はみがき勇者」というアプリをご存知でしょうか?

このアプリは「やりたくないこと」である歯磨きにゲーム形式で楽しく取り組み、習慣にできるよう開発されました。
歯ブラシを持ってカメラに向かうことで、兜をかぶった勇者に変身し、歯磨きをすることでモンスターを攻撃。
様々な角度で磨くほど攻撃力が大きくなり、丁寧に磨く練習ができます。
モンスターを倒して獲得できるコインに応じて「ヒーローカード」が手に入り、さらに攻撃力がアップ、より多くのモンスターを倒せるようになります。
30ステージごとに登場するドラゴンを倒すとプレイヤーがかぶる勇者の兜がグレードアップする仕掛けも用意されています。
プレイするほど強くなり、先に進めるようになるシンプルなルールで、積極的に歯磨きに取り組む気持ちをサポートします。

歯磨きを嫌がるお子さんに苦戦されている保護者の方々、ぜひ一度試してみられてはいかがでしょうか。

歯科医師 松﨑麻実

 カテゴリ:未分類