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アーカイブ: 3月 2020

味覚の仕組み

こんにちは。歯科医師の小松です。
季節の変わり目で体調を崩しやすい
時期ではありますが、皆さまお変わりはありませんか。
メディアでは連日、新型コロナウィルスの大流行が報道されています。
手洗い、うがいなどの感染対策をしっかり行い自分の身を守りましょう。

さて、皆さまは普段どのように味を感じているのかご存知ですか?
我々は毎日の食事を通じて身体に必要不可欠である栄養素を摂取する事で生命活動を維持しています。
そして、この食事をとる際に無意識に味覚を用い、様々な味を感じ取っています。今回はその味覚の仕組みについてご説明したいと思います。

○味を感じるしくみ

ヒトの味覚の大部分は舌表面で生じます。(その他には軟口蓋 咽頭 喉頭など)
舌の表面には糸状乳頭、茸状乳頭、葉状乳頭、有郭乳頭と呼ばれる突起状の構造が4種類存在しています。

※糸状乳頭は舌全体に点在

糸状乳頭以外の乳頭には味蕾という味を受け取る受容器が存在しています。
味蕾の寿命は約10日で、成人で5000~7500個、高齢になるほど減少傾向にあります。

この味蕾を構成する細胞は50~150個。さらにこの中の一部に存在する味細胞は唾液や水に溶けた飲食物に含まれる化学物質(味)を受容し、信号として神経を伝導し、脳によって味の種類を感知できるというシステムになっています。

味細胞の中にはⅡ、Ⅲ型細胞が存在しており、Ⅱ型細胞は甘味 苦味 うま味を受容し、Ⅲ型細胞は塩味 酸味を受容します。
そしてこの苦味、酸味、塩味、甘味、うま味は5基本味と言われています。
苦味の感受性が最も強く、これはエネルギー源や栄養源となる好ましい味と腐敗物や毒物など人体に有害となる回避すべき味を識別し、食物を取捨選択する役割を果たしています。

また20世紀まで、これら基本味の感受性は舌の位置によって異なることが古くから言われてきましたがそのような証拠はなく、2000年に米国のグループにより舌全体の味蕾でそれぞれの味を感じ取っていることが明らかになりました。
このようにヒトの持つ味蕾によって化学物質(味)を受容し、電気信号として脳に伝わり、認識することで味を識別するというシステムになっています。

○近年の味覚の研究について

しかし近年では味覚に関するシステムの研究が進歩したことで機械による味の判別が可能になりました。
味を分析したのは、九州大がベンチャー企業などと産業連携でつくった味香り戦略研究所の分析機。
5基本味に渋味を加えた味の評価を新開発の味覚センサーを用いることで流れる電位差から味を数値化することに成功しました。
ある食品メーカーがこの味覚センサーを用いて自社が数多く取り揃えていたドレッシングの味を分析したところ、味の方向性が偏っていたことが判明し、新商品の開発に繋げることが出来たそうです。
その他には果物や野菜の品種改良においても参考にされているといいます。

味覚センサー(味認識装置)https://www.irie.co.jp/products/taste-ts-5000z/

近年、このような機械による味の評価が進められている中、東京大学大学院農学生命科学研究科 三坂巧准教授は解明された味覚のメカニズムを応用し、2010年 味蕾の遺伝子を腎臓由来の細胞に組み込み、甘味を感じると赤く写るように反応する甘味センサー細胞を開発しました。
これは電位差や果汁の濃度から代替的に甘味を測定する糖度計と異なり、実際に人が味を感じる仕組みを再現し、甘みの強さを2分間ほどで測れるという仕組みになっています。
つまりこの甘味センサー細胞は、ヒトが感じる甘味に近い数値を示すことができます。
人の経験と感覚に頼ってきた味覚の計測からいかに脱却するかが大きな目標と三坂准教授は話します。
この研究は産業界からも注目されているようで、将来的に臨床に活かすことが出来るようになれば、味覚センサー同様、食品開発や新たな応用領域にも役立つであろうと確信しています。

また味蕾そのものの研究も進んでいます。
これまで苦味は毒の可能性がある物質を正確に見分けるために多くの種類を感じられるようになったという説から苦味の受容体は25つ存在することが分かっています。
しかし、なぜ甘味の受容体は1つのみにも関わらず砂糖や人工甘味料などの様々な甘味物質を同じように甘いと感じられるのかについては今まで解明されていませんでした。
しかしこの仕組みについては、岡山大の山下敦子教授の研究チームが2017年に大型放射光施設スプリング8を用いたメダカの味覚センサーの詳しい構造の解明により明らかになりました。
実際、甘味やうま味をキャッチする味細胞の受容体は柔軟な形をしており、食物を構成するアミノ酸(αアミノ基やカルボキシル基等)の一部分の構造を認識することで受容することができているというものでした。
一方で体の仕組みを整えるアドレナリンやドーパミンなどのホルモンに対する受容体は厳密にできており、不用意に神経が過敏になることや、血糖値が乱高下するのを防いでいます。
甘味や旨味など生命維持に必要な味覚に関しては幅広くおいしいと感じられるように限られた遺伝子情報で生命活動を維持できるように作られた仕組みなのかもしれないと山下教授は話します。

○まとめ

味覚の仕組みについてはいかがでしたか?
ご紹介してきました通り、現在様々な分野で味覚についての研究が進んでいます。
しかし味覚の研究は他の感覚の研究に比較して非常に遅れており、視覚の研究は30年、嗅覚の研究は10年ほど進んでいます。
味覚の受容体に関して分かってきたのは2000年以降の話です。
この発見以降一気に研究が進み、味覚の仕組みが徐々に解明されてきたことで機械による味の分析が可能になりました。
視覚や聴覚と異なり、記録や再現の難しい味覚にとって大きな一歩であったと言えます。
このように味覚が主観的情報だけではなく共有できる客観的情報にも変換できるようになったことで食品産業界にて活躍するのはもちろんのこと、伝統の味、あるいは現在の食文化を後世に正確に繋げていくことも可能になっていくだろうと確信しています。

歯科医師 小松リナ
〈参考文献〉第五版 基礎歯科生理学 医歯薬出版

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