皆さま、こんにちは。
夏本番を迎え、厳しい暑さが続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか? 水分をしっかりと取り、体調には十分お気をつけください。
さて、今回は「根管治療後の歯の寿命について」というテーマでお話しさせていただきます。
まず、根管治療とは何かについて簡単にご説明いたします。
歯の表面に限局した虫歯の場合は、虫歯を除去した後にコンポジットレジン(樹脂)で詰める治療や、インレーと呼ばれる部分的な詰め物を作製する治療を行います。
しかし、虫歯が歯の内部にある「歯髄」(神経や血管が詰まった空間)まで進行してしまうと、コンポジットレジンやインレーだけでは不十分となり、歯の神経を除去する必要が出てきます。
この歯髄などを取り除き、根管内を清掃・消毒することで虫歯の進行を抑え、症状を改善する治療が「根管治療」です。
ただし、根管治療を行っただけでは治療は完了しません。
治療によって穴が空いた歯を再び機能させるためには、歯を補う処置(「補綴処置」といいます)が必要です。
では、根管治療後に行う補綴処置によって、歯の寿命はどのように変化するのでしょうか?
この点について調査した論文をご紹介します。
この研究では、以下のような結果が報告されています:
つまり、同じ根管治療を受けた歯でも、その後の補綴処置によって寿命が最短6.5年から最長20.1年まで大きく変わることが分かります。
特にここで強調したいのは、根管治療後に歯質が残っていたとしても、部分的な詰め物であるコンポジットレジンやインレーではなく、歯全体を覆う被せ物である「クラウン」による治療の方が歯の寿命が長くなるという点です。
根管治療をした後、クラウンで治療することで歯の寿命が延びるという考え方の根拠となるもう一つの論文をご紹介します。
Linnらは1994年のJournal of Endodonticsにて、根管治療後の歯の修復形態と強度について実験を行いました(『Effect of Restorative Procedures on the Strength of Endodontically Treated Molars』)。
実験では、根管治療を行った歯の状態を人工的に作ります。
図1:歯の中央に穴が空いており、神経を取り除いた後の空洞がある状態です。
人工的に根管治療を施した歯に荷重をかけ、歯に生じるひずみから強度を測定しました。強度の基準値は100としています。
図2 :上の窩洞にアマルガムと呼ばれる材料を充填した状態で、 荷重をかけて強度を測定しています。
アマルガム充填 → 左右の咬頭ともに基準値である100よりも低くなります。
図3 :左側の咬頭のみをゴールドで被覆したいわゆるアンレーの状態です。
右側の健全な歯は残しています。
この状態で荷重をかけた歯の強度はどうなるでしょうか。
結果はなんと、 左側の咬頭の強度は100 よりも、 右側の咬頭の強度よりも圧倒的に高くなるのです。
図4:左右ともに咬頭をゴールドで被覆した場合です。
右側の健全な歯も犠牲にして削っている状態です。
この状態で荷重をかけた歯の強度はどうなるでしょう。
左右の咬頭どちらも100 よりも強度が上がるのです。
この結果から、クラウンによって歯を全体的に覆うことで、健全な歯質が残っている状態よりも強度が向上することが分かりました。
つまり、多少健全な歯質を削ってでもクラウンにする方が、歯の強度が高まり、結果として長持ちするのです。
以上の研究結果から、歯の強度・寿命という観点では、レジン充填やインレー・アンレーといった局所的な補綴よりも、歯全体を覆うクラウンの方が優れていると言えます。
インレーやアンレー、レジン充填を希望される患者様のお気持ちも理解できますが、クラウンを装着することで歯の寿命が延びることを知っていただき、「何が一番歯にとって良いか」を考える材料の一つとしていただければ幸いです。
歯科医師 高見 航平
参考文献
ROOT Canal Treatment Survival Analysis in National Dental PBRN Practices T. Thyvalikakath et al., J Dent Res. 2022 Oct.
The effect of different restoration techniques on the fracture resistance of endodontically-treated molars Funda Kont Cobankara et al., Oper Dent. 2008 S
2025年8月21日 カテゴリ:未分類